金沢21世紀美術館では、美術館を象徴すると言って過言でない作品「スイミング・プール」を手がけたアーティスト、レアンドロ・エルリッヒの国内初となる個展「レアンドロ・エルリッヒ ーありきたりの?」が8/31(日)まで開催されています。
私もこちらを目当てに金沢まで行ってきました!
レアンドロ・エルリッヒ(1973年生)はアルゼンチン出身の現代アーティスト。
視覚の錯覚を利用し、日常にありふれたものを非日常化させることで、そこにある私たちの問題意識を換起させる作品を数多く手がけています。
エルリッヒの作家性について、自身で語られているものに分かりやすいものがあったので、少し引用してご紹介します。
「うさぎスマッシュ」(フィルムアート社/2013年)より
私は平凡な世界や日常の生活空間を新しい体験の場に転換させる物語を紡ぐことに情熱を注いでいます。
<中略>
私は未来を与えられるものとして想像するのではなく、私たちが確実だと思い込んでいることがいかにもろいかということ、また、これからもまだ驚きに満ちた新たな窓があるということを再確認することによって、人々に希望をもたらしたいと思っています。
展示内容について語る前に、とても重要な事を言いたいと思います。
何と!こちらのエルリッヒ展に限っては作品の撮影が許可されているのです!!!
そこで、百聞は一見にしかず!ということで全作品を写真付きでご紹介します(*゚∀゚)ノ
まず企画展の手前で、いきなり出ました「スイミング・プール」(2004)!!
一見すると普通のプールに見えますが、実際は深さ10cm程のところでガラスがあり、地上と地下を隔てています。
縁に水流を発生させる装置があり、水面は常に波打った状態になっています。
地下にいる方々の像が揺らめいているのが分かるでしょうか。
実はプール地下の入り口は、エルリッヒ展とは逆のコレクション展の方に行かないといけなかったので、実際に見た順番は最後だったのですが、分かりにくいので続けていきます(*^ェ^)
地下道の突き当りがプールの地下。
プールの地下は狭いのですが、光が溢れていて感覚的にはずっと広く感じられました。
陽が射すと水の流れで屈折した光が本当にきれい(*゚∀゚)
地上にいても地下にいても、張られた水越しに人を見るのが楽しいので、地上と地下でお互いを写真で撮り合っているのが面白かったです。
普通なら見ず知らずの人を積極的に撮ったりしないのに、わずか10cmの水を挟むことでコミュニケーションを取り始めていると考えると何だか不思議ですね。
ここからが今回のエルリッヒ展の展示になります。
こちらは「見えない庭」(2014)。
格子に囲まれた庭の中は、鏡で4分割されています。
下の写真の右端と奥が鏡になっているのが分かるでしょうか。
沢山の人で囲うと空間の不思議さが際立ちますね。
パトリック・ブラン「緑の橋」をくぐって次の展示室へ。
「エレベーター・ピッチ」(2004)。
エレベーターの扉が開くと、様々な人たちのエレベーター内の映像が流れます。
カウントし忘れてしまったのですが、相当な数の映像が、単純にループしているのではなく、ある程度ランダムに流れているみたいでした。
エレベーターはパブリックな空間でありながら、閉じられるとプライベートな空間に変じる感覚があるかと思います。
なので、普通に扉が開いただけなのに、誰かのプライベートを覗いているような感覚がしてしまいます。
ちなみに私は上の写真の映像が気に入っています。女性たちの関係性に色々想像が膨らみました(^^)
イメージしやすいかと思いGIFアニメにしてみました。
今回の展示で最も大きいのが「階段」(2005)。
ここに至って初めて気がついたのですが、トップライトに自然光が取り入れられているので、とても柔らかな明るさです。
こちらはご覧のとおり、普段は見下ろす形になる螺旋階段を、水平に見るというもの。
ちなみに中央の黒い四角はビルの入口によくある足ふきマット(?)です。
奥から見るとこんな感じに。
見慣れているはずの手すりの造形が何とも不思議で、だまし絵の中にいるような感覚の揺らぎを感じました。
こちらは「エレベーターの迷路」(2011)。
手前と奥の列に3つずつ、合計6つのエレベーターが並んでいて、それぞれの列の端のエレベーターに鏡が張られていて、合わせ鏡の要領で無限にエレベーターが連なっているように見えます。
言葉で説明しにくいので上面図を作ってみました。
青の部分が鏡で、各エレベーターを仕切る壁の赤い部分は、腰ぐらいの高さです。
他に誰もいない時は真ん中のエレベーターに入ってみるのが良いと思います。
繋がっている隣の展示室にあるのは「雲」(2014)。
高透過ガラスにセラミックスインクで描いたものが幾重にも並べられていて、立体物のように見えます。
展示室には「蟹」、「水母」、「犬の頭」、「白熊」、「雌鳥」、「ライオン」のタイトルのプレートがありますが、特にこれがこのタイトルということは設定されておらず、自分でそう見えるものがそれということで良いそうです。
地面に置いてある建物と人を、斜めに倒した鏡に映したものを写真に撮ったもので、コラージュアートみたいですね♪
こちらは一度に見ることのできる人数が8人に限定されている「リハーサル」(2014)。
用意されている弓などを持ってポーズをとると、ガラスに映り込んで、その向こうのバイオリンやチェロを弾いているように見えるというもの。
ガラスで隔たれているものが、そのガラスに映り込んで一体化して見えるというのが面白いです。
こちらは「サイドウォーク」(2007)。
水たまりに映った、壁の向こうに流れている映像を見る作品で、個人的に一番好きです(´∀`)
雨上がりなのでしょうか、時々水たまりに雫が落ちて波紋が広がります。
映像はしっかり時間の流れがあって、朝→昼→夕→夜→朝というように、見ていると街の表情がくるくる変わっていきます。
ちなみにこの街はエルリッヒの故郷ブエノスアイレスなのだそうです。
最後は「ログ・キャビン」(2009)。
こちら側から見ると外の光景。
逆から見ると室内の映像が流れています。
窓の断面とでも言えばよいのでしょうか?
以上、全17作品、“発見や疑問の世界を想像できない”とも語っているエルリッヒの、再解釈された日常世界を見て、体験できる本当に素晴らしい展覧会でした(´∀`)
東京から6時間かけても来る価値のあるものでした。オススメです!
展示を観終わった後に美術館の方に教えていただいたのですが、エルリッヒは作品を残すということをあまりやってこなかったそうで、作品自体はもちろん写真などにも残っていないものが多数あるそうです。
そういう方なので、作品集など、まとまった資料があまりないとのこと。
が、何と!今回の展覧会がキッカケなのかは聞きそびれてしまいましたが、金沢21世紀美術館さんの方で7、8月中にエルリッヒの作品集を出されるというお話を伺いました!!!
一般流通もするそうなので、楽しみに待ちたいと思います(´∀`)
ちなみにはじめの方でご紹介した文の引用元の本は、こちらの「うさぎスマッシュ」(フィルムアート社/2013年)。
エルリッヒは数頁しか載っていませんが、現代のアート、デザインに関する示唆的な内容でなかなか興味深いです。
written by Teru
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「レアンドロ・エルリッヒ ーありきたりの?」(→公式サイト)
会期2014年5月3日(土)~8月31日(日)
毎週月曜日閉場 開館時間10:00~18:00(金・土は20:00まで)
金沢21世紀美術館
〒920-8509 石川県金沢市広坂1-2-1